散策研究会|第4回漂流教室 崖線上のカフカ──中野区を歩く
2017年 06月 09日

前回の『第3回漂流教室 山の手の<むらぎも>を巡る』では、中野重治著『むらぎも』を参照しつつ、文京区を歩きました。今回は中野区を歩きます。新宿区と豊島区に隔てられたこの2つのエリアは、地形学的には通称М面(武蔵野面)と呼ばれる区分に属しており、共に武蔵野台地の東部(東縁部)に位置しています。神田川を他区との境界としているところも似ています。むろん違いもあります。特に中野区は武蔵野台地を流れるいくつかの河川(神田川・桃園川・善福寺川・妙正寺川・江古田川)が合流する場所にあり、多くの台地と谷が複雑に入り組んでいます。歴史的にみても中野区はいくつかのエリアに区分されるようです。もともと野方村と中野村が合併された地域で、おおまかにいうと、JR中央線を境に北と南では異なる文化を育んでいたようです。今回の漂流教室では、このM面が形成した入り組んだ谷の崖線を辿るように歩いて、中野区エリアの地理・環境を実感してみたいと考えています。
そこで、今回参照する文学作品ですが、村上春樹の『海辺のカフカ』にしました。周知のように彼の代表作のひとつですが、この物語の舞台として選ばれているのが中野区野方(と香川県高松市)です。参加希望の方は、なるべく『海辺のカフカ』を読んできてください。さらに時間のある方は、併せてフランツ・カフカの『流刑地にて』も読んでくるといいでしょう(なにしろ主人公がカフカを名乗っているくらいです)。とりわけカフカ作品のうち“不思議な処刑機械の出てくる話”『流刑地にて』。主人公の田村カフカは第7章p119(新潮文庫版)で、『流刑地にて』について次のように云います。「その複雑で目的のしれない処刑機械は、現実の僕のまわりに実際に存在したのだ」と。
さながら台地と低地を分け走る崖のように、フィクションと現実には裂け目があるようです。それはまるで、何百年もの間いかなる外敵も寄せつけることなく聳え立ってきた擁壁のように感じられることもある。しかし、フィクションと現実の「落差(高低差)」をつなぎとめる入り口はどこかに隠されている。必ず存在しているはずです(『海辺のカフカ』はそういう意味で面白い題材といえます)。
いかなる目的のためにフィクションは、どのくらい現実を抽象化・還元するのでしょうか。作家は環境から何を汲み取り作品にするのでしょう。しかしまた一方で、そのような抽象化や還元などからこぼれ落ちていくものたちの行方も気になります。人の関心を一切惹きつけない出来事のことです。こうしたものへの関心が矛盾を孕むことはむろん承知しています。とはいえ、傍から見れば、単なる歩行という造作ない原初的な身体行為であるにも関わらず、そうした疑問・関心が私たちの散策プロセスを複雑にし、環境への観察能力をさらに深め、知覚世界を拡げることも確かなことでしょう。
いみじくも中野区認定観光資源のロゴマークが示しているように、今回は、中野区という「迷宮」のなかへと足を踏み入れていければと考えています。いやむしろ、私たちの歩みそのものが、ありふれた町を迷宮に仕立て上げていく。今回の散策がそのきっかけになれば幸いです。


そこで、今回参照する文学作品ですが、村上春樹の『海辺のカフカ』にしました。周知のように彼の代表作のひとつですが、この物語の舞台として選ばれているのが中野区野方(と香川県高松市)です。参加希望の方は、なるべく『海辺のカフカ』を読んできてください。さらに時間のある方は、併せてフランツ・カフカの『流刑地にて』も読んでくるといいでしょう(なにしろ主人公がカフカを名乗っているくらいです)。とりわけカフカ作品のうち“不思議な処刑機械の出てくる話”『流刑地にて』。主人公の田村カフカは第7章p119(新潮文庫版)で、『流刑地にて』について次のように云います。「その複雑で目的のしれない処刑機械は、現実の僕のまわりに実際に存在したのだ」と。
さながら台地と低地を分け走る崖のように、フィクションと現実には裂け目があるようです。それはまるで、何百年もの間いかなる外敵も寄せつけることなく聳え立ってきた擁壁のように感じられることもある。しかし、フィクションと現実の「落差(高低差)」をつなぎとめる入り口はどこかに隠されている。必ず存在しているはずです(『海辺のカフカ』はそういう意味で面白い題材といえます)。
いかなる目的のためにフィクションは、どのくらい現実を抽象化・還元するのでしょうか。作家は環境から何を汲み取り作品にするのでしょう。しかしまた一方で、そのような抽象化や還元などからこぼれ落ちていくものたちの行方も気になります。人の関心を一切惹きつけない出来事のことです。こうしたものへの関心が矛盾を孕むことはむろん承知しています。とはいえ、傍から見れば、単なる歩行という造作ない原初的な身体行為であるにも関わらず、そうした疑問・関心が私たちの散策プロセスを複雑にし、環境への観察能力をさらに深め、知覚世界を拡げることも確かなことでしょう。
いみじくも中野区認定観光資源のロゴマークが示しているように、今回は、中野区という「迷宮」のなかへと足を踏み入れていければと考えています。いやむしろ、私たちの歩みそのものが、ありふれた町を迷宮に仕立て上げていく。今回の散策がそのきっかけになれば幸いです。



中野区の大地が震えているようにも、複雑な迷路に見立てたようにも見える。『海辺のカフカ』を「崖線上のカフカ」へと読み替えようとする私たちを、すでにあらかじめ誘っていたのだとすらいいたくなる中野区認定観光資源のロゴマーク。
※ 参考サイト:まるっとNAKANO http://www.visit.city-tokyo-nakano.jp/
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散策研究会|第4回漂流教室 崖線上のカフカ──中野区を歩く
2017年6月9日(金)
13時30分 JR中野駅北口改札口 集合(※集合場所が変更になりました)
時 間:13時30分~18時頃(途中参加・離脱あり)
コース:中野区野方地区を歩くという以外未定ですが野方台地とその周辺の谷地付近を中心に歩き、最後に野方の商店街を目指す予定。
持ち物:特になし(散策記録を残したい人はカメラなど持参するとよいでしょう)
定 員:5名 要予約(前日までに、rojitohito@gmail.comまでお申し込みください)
参加料:500円
※ 基本的に雨天決行(大雨の場合等中止)
※ 多分途中休憩なしでぶっ通しで歩くので、充分な睡眠と食事をしっかり摂ってきてください。
※ 散策終了後、野方商店街のどこか呑み屋で懇親会の予定。
※ 今回の散策にあたり、資料映像作品をふたつ制作しました。参考にしてください。(映像を鑑賞する方は画面右下の歯車マークの「設定」モードを1080pHDを変更のうえ、「全画面」モードに切り替えて觀て下さい)
江古田 Egota https://www.youtube.com/watch?v=G_osKLdNkuY
野方 Nogata https://www.youtube.com/watch?v=64mQM-MzWgw

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散策研究会とは、2013年に発足した、北川裕二主宰の都市散策のプロジェクト。研究会の前身は四谷アート・ステュディウムの環境文化・耕作ゼミ。
北川裕二
1963年東京生まれ。
主な活動に、散策研究会 武蔵野断想──地殻を近くで知覚する http://yujicadavre.blogspot.jp/
そのほか、「review the landscapes」(milkyeast, 2015)https://www.youtube.com/watch?v=hg2adng9yDY、複数アーティストの参加による連歌形式のブログ「金魚/黄桃」(2010-2011)、「Dus t p ass es through the window」(Gallery Objective Correlative, 2006)など。
主な活動に、散策研究会 武蔵野断想──地殻を近くで知覚する http://yujicadavre.blogspot.jp/
そのほか、「review the landscapes」(milkyeast, 2015)https://www.youtube.com/watch?v=hg2adng9yDY、複数アーティストの参加による連歌形式のブログ「金魚/黄桃」(2010-2011)、「Dus t p ass es through the window」(Gallery Objective Correlative, 2006)など。
by rojitohito
| 2017-06-09 00:00
| 2017年終了イベント